まずは、上の三枚のアルバムにご注目頂きたい。"Free Angela"は219ドル、Larry Saundersは113ドル、The Whole Darn Familyは184ドル。
これはオークションで実際に取引された最高額だ。
この超マイナー・レーベルから発売された激レア・アルバムだが、なんと、
三枚とも2013年に、"Free Angela"は米国で、Larry Saunders とThe Whole Darn Familyは日本でCD化され、入手しやすくなった。
そして日本のCDには、解説がついているのだが、やはり情報不足で書かれているので誤りだらけなのは否めない。
仕方ないと思う。なにせ、マイナー・レーベル。情報など何も入手できないのだから。
ところで、米国でCD化された"Free Angela"には、32ページにも及ぶ筆者不明の解説がついており、多分"Mr. Wiggles"にインタビューして書かれていると思われ、あっと驚くような新事実も含まれているのである。
投獄された女性黒人解放運動活動家 Angela Davisに6ページ費やしているものの、その他はMr. Wiggles 及びSound of Soul Familyについても詳細な説明が書かれており、日本のCDの解説を書かれた方もこの"Free Angela"の解説を見てから書いたらどれだけ詳しい解説が書けたかと思う。
ただ、この三枚のCD、ほぼ、同時期に発売されたので、こういう結果になってしまったのであろう。
さて、早速"Mr. Wiggles"という人物について書いていこうと思う。上の三枚のアルバムをプロデュースし、ほとんどの曲のライターが"Mr. Wiggles"なのである。
でも、これらのアルバムを所有している人なら、こういう疑問を持つはずである。"Free Angela"は"Dickie Diamond"、残りの二枚は "August Moon"という人がプロデューサー及び作曲家でないのかと。
実は、ここら辺が、Mr. Wiggles & His Sound of Soul Familyの周辺の事実をを訳分からなくしている要因なのである。
マイナー・レーベル、及びそこに所属するマイナー・アーティストの "あるある" をこれから説明してみたい。
Mr. Wiggles、 Ray Curtis、 Dickie Diamond、 August Moon
これ全て同一人物です。この名前でソング・ライターとしてクレジットされています。アーティストとしてはMr. Wiggles、次にAugust Moon、そして最近またMr. Wigglesに戻しています。
Alexander Randolph、これが本名、バージニア州、リッチモンドで1937年8月7日生まれ。元々、プロモーター、DJ、プロデューサ、ソング・ライター、レーベルのオーナー、そしてたまにアーティストもこなしますが、アーティストとしてはそんなに才能は感じられませんが、
あのLarry Saundersの名盤 "Stranger"を全曲作曲しプロデュースしているところを見ると、かなりのやり手だと思われます。
自身が経営するレーベルもFat Back Recordings, Raven, Golden Triangle, Hemisphere, Sound of Soul, Soul International, Spriteと次から次へと名前を変えていますが中には一枚シングルをリリースして閉めてしまったレーベルもあります。
この中でもSound of Soul, Soul Internationalの二つのレーベルからは数多くの名盤がリリースされており、ノーザン・ソウル・ファンの注目のレーベルと言えます。
なぜ、芸名を次から次へと変えるのか、なぜ、レーベルの名前を次から次へと変えるのか。
この事について自身、元DJでもある"Mr. Wiggles"は下記のように答えています。
"DJは得てして、同一アーティストのシングルは3枚位しか聴かない。4枚目以降はもう先入感があるので聴いても無駄。レーベルも同一レーベルでは三人位のアーティストしか聴かない。"
1960年代はシングル中心の世界。シングルでヒットを狙う為には、ラジオでレコードを掛けてもらわなければ、誰の耳にも音楽は届かない。
そして、掛けるレコードを決めるのはDJ次第。
という訳で、DJにシングルを聴いてもらわないと話にならないので、手を変え品を変えてなんとかDJに聴いてもらおうという作戦なのである。
あるアーティストを、途中で、芸名やレーベルを変えていくことで、同じアーティストなのに新人と思わせてDJに兎に角レコードを聴いてもらって、最終的にはラジオでオン・エアしてもらおうという事なのだ。
これでDan Pennや Jeanie Greeneが芸名を変えたりする謎が明らかになったと思う。
さて次に、"Mr. Wiggles"が経営するレーベル、
Sound of Soul, Soul International の特色について説明してみよう。
特色 @
シングルのB面なんてどうせ聴かれないだろう・・・という事でA面はボーカル。B面はカラオケのインスト。
というパターンが多い。A面パートT、B面パートU。
特色 A
同じバック・トラックを利用して複数のアーティストに歌わせてシングル・リリース。
ALL MY FRIENDS CALL ME A FOOL
バック・トラックは1970年か71年にLarry Saundersのアルバム用にマッスル・ショールズでレコーディング。
同時にLarry Saundersのボーカルでレコーディングしたが、先にリリースされたのは
Nobody's Child が唄った1971年のシングル (Sound of Soul SOS-202)
次が、Larry Saunders のアルバム"Stranger" (Soul International SLP-100)
そして最後にDickie (Sweet Sugar) Wonderが唄った1976年のシングル(Golden Triangle GT-101)
これら全て同じバック・トラックを使用。
特色 B
レコード・ナンバーの決め方が適当。法則無し。
これによってどんな事が起きたか。
同一レコード番号で二つのアーティストのシングルが存在する。
Sound of Soul SOS-202/SOS-203 (1971)
Brother Love "I Can Be"
Nitroglycerin "Old Uncle Tom Is Dead"
特色 C
同じレコードを何回かリリース。レコード番号が変わらない場合と変わる場合。全く同じ音源の場合と、再リリースの時にバージョン違いの音源に差し替える場合。
特に、レコードの配給会社が変わると再リリースする場合が多い。
日本でCD化された The Whole Darn Family の解説の中に大きな間違いを発見してしまったので、ここで訂正してみたいと思う。
2013年9月に日本のクリンク・レコードより Soul International レーベルから1976年にリリースされたたった二枚のアルバム、すなわち
Larry Saunders (The Prophets Of Soul)"Stranger" 、The Whole Darn Family "Has Arrived" がCD化されました。
実は、Larry Saundersに関しては既に2001年に本家Soul International レーベルより米国でCD化されていましたが、その時はジャケットがアレンジされた物が使われていたので、今回はオリジナルにこだわった
CD化を目指したようです。実は、この二枚のアルバム共、ジャケットの違う2パターンが存在するのだ。
Left @ : Larry Saunders (The Prophets Of Soul) "Stranger" Soul International SLP-100
Right A : Larry Saunders "The Prophets Of Soul" Soul International SLP-100
Left B : The Whole Darn Family "Has Arrived" Soul International SLP-103
Right C : Tyrone Thomas And The Whole Darn Family "Has Arrived" Soul International SLP-110
アーティスト名や、タイトルに若干の差はあるが、Larry Saundersに関してはカタログ・ナンバーもSLP-100で一緒なのだが、The Whole Darn Familyに関してはカタログ・ナンバーSLP-103の方が黒人白人混合メンバーに対して、SLP-110の方は黒人のみのメンバーが写っている写真がジャケットに使われいる。
そして、何故The Whole Darn Family がセカンド・リリース時にナンバーを変えたかというと、実はLarry Saundersはファートス、セカンド・リリース共に全く同じ内容だったのに対して、The Whole Darn Family に関しては一曲バージョンを差し替えているのだ。
その一曲というのが "Seven Minutes Of Funk" というぴったり7分のインストで、全篇に渡ってエコーが思いっきりかかったコンガの音が耳触りなバージョンと、そのコンガをミックスで取り去ったバージョンだ。
SLP-110 の方がコンガ有バージョン、SLP-103 の方がコンガ無バージョンで、常識的に考えれば、セカンド・リリースする時に以前よりいいものをリリースしたいと思うでしょ。
でも、カタログ・ナンバーから考えるとSLP-103の方が、当然先だと考えるよね。だからクリンク・レコードの担当者もCD化に際してオリジナル優先ということで、@とBのジャケットを採用した。
そして解説を書いた方もSLP-103がファースト・リリースでSLP-110がセカンド・リリースとして書かれているのだ。
さて、結論から言ってしまうと、SLP-110がファースト・リリースでSLP-103がセカンド・リリースなのだ。
セカンド・リリースに際して、評判の悪かった"Seven Minutes Of Funk"のコンガをミックスで消し去りました。
Soul International レーベルから、リリースされた、たった二枚のアルバムって言いましたよね。最初のリリースがLarry SaundersのSLP-100、次のリリースがThe Whole Darn FamilyのSLP-110というわけで(二進法かよという突っ込み)、The Whole Darn Familyのセカンド・リリースに際して、内容的に3枚目なのでSLP-103 にしたのだと思う。
もう一つ、配給会社を見てみれば一目瞭然。@とCはSoul Internationalが直接レコードをプレスしているのに、AとBのラベルを見ると、distributed by Amherst Records, 355 Harlem Road, Buffalo, New York, 14224 と書いてある。
Amherst Records に配給をまかせたきっかけで、再発した・・・というのがセカンド・リリースの存在理由なのだ。
レコード・コレクターにとってカタログ・ナンバーというのは目安なので、こういう訳わからないカタログ・ナンバーを使うレーベルというか、オーナーというか、全く厄介な存在だ。
ただ、こういうケースも玉にはあるというのを知っておくのも勉強になるかな。