N o b o d y 's   F o o l  
by Hideki Watanabe ©2012


-------Dan Penn が1973年に Bell Records からリリースした、初アルバム "Nobody's Fool"。 いまでこそ、CD で誰でも簡単に聴くことができる、アルバムだが、70年代当時は、非常に入手困難、かつ高価なレコードで 、だいたい一万から一万五千円位、レコード屋さんの壁に飾られているような高嶺の花的なレコードだった。 貧乏な学生時代には、とても買えるような代物ではなく、勤めだして数年後、会社から近い場所にオープンした中古レコード屋さんで オープン特別価格、四千円で売られていて、即購入した。当時としては信じられないような安値だった。 話がどんどん横道に逸れて行きそうなので、とっとと解説をすすめよう。

@ "NOBODY'S FOOL" (by Dan Penn & Bobby Emmons)

Charlie Freeman : Guitar
Tommy McClure : Bass
Sammy Creason : Drums
Mike Utley : Keyboards
John Hughey : Steel Guitar
Nashville Strings : Strings
Nashville Horns : Horns

-------@曲目は、Dan Penn が Bobby Emmons と共作した曲で始まる。Bobby Emmons は Chips Moman の経営するAmerican Studio のキーボード奏者である。 バックを務めるミュージシャンはThe Dixie Flyers の四人のリズム・セクションに Steel Guitar の大御所 John Hughey (レコード・ジャケットにはJohn Hueyとスペル・ミスされている)、それに、Nashville Strings、Nashville Horns が それぞれ大フィーチャーされて、ソウル・ミュージックにポップスの要素を織り込んだ、かなりヒット性を意識したサウンド作りを目指している。肝心のDan Pennの歌声だが、 油の乗り切った艶のある色気むんむんの歌い方で、最近の、往年の名作を枯れた感じで歌い上げるのとは真逆の、この時代でしか聴くことができない歌声である。 ちなみに、この曲は、アルバムのリリースに遡ること三年前の1970年に Happy Tiger というレーベルからリリースされたシングル HT-538 のA面曲で、 B面曲の "Bukaroo Bill" という曲は、このアルバムに収録されてはいないが、素晴らしい曲で、是非聴いていただきたい。

A "RAINING IN MEMPHIS" (by Dan Penn, Spooner Oldham & Mic Lietz)

Dan Penn : Guitar
Dulin Lancaster : Drums
Jim Johnson : Bass
Spooner Oldham : Organ
Jay Spell : Piano
Memphis Strings : Strings
Memphis Horns : Horns

-------A曲目は、Dan Penn が Spooner Oldham と Mic Lietz の二人と共作した曲である。Mic Lietz はこのアルバムの全ての曲を レコーディングしたエンジニアーだ。この名前、どこかで聞いた事あると思ったら、こんなところで発見。 ちなみにミックス・ダウンのエンジニアーはDan Penn自身である。この曲がレコーディングされたのは、間違いなくDan Pennの当時のスタジオであるBeautiful Sound。 バックを務めるミュージシャンは、Dulin Lancasterが Drums、Jim Johnson が Bass、Spooner Oldham又はJay Spell がKeyboard と固定されているので分かる。 Dulin Lancaster はこのアルバム以外では余り名前の聞かないドラマーで1968年にアルバムを一枚出している、Jim Weatherly がリード・ボーカルを務める"The Gordian Knot" というソフト・ロック・バンドのメンバーだった人。 ここではRoger Hawkins のようなたくましいドラムを叩いている。Jim Johnson は Muscle Sholas のJimmy Johnson とは別人で、70年代に幅広いジャンルで活躍したセッション・ミュージシャンらしい。 Jay Spell はこの手のスワンプ系のアルバムの常連、Spooner Oldhamは説明は不要でしょう。イントロから甘さ満載、Bergen Whiteがアレンジしたストリングスもねっとり 絡みつつ、ともすればポップスかと思われてしまうが、Dan Penn のソウル・フルなボーカルが、全体を引き締めている。余韻のあるエンディングも印象的である。

B "TEARJOINT" (by Dan Penn & Donnie Fritts)

Dan Penn : Guitar
Dulin Lancaster : Drums
Jim Johnson : Bass
Spooner Oldham : Keyboards
Leo LaBlanc : Steel Guitar
Tommy Richards : Guitar
Susan Dotson : Background Voice
Mary Holiday : Background Voice
Ginger Holiday : Background Voice
Memphis Strings : Strings

-------B曲目は、Dan Penn が Donnie Fritzと共作した曲である。今までの、二曲とはうって変わってカントリー色濃厚の Country & Soul の曲。 南部界隈で活躍する Leo LaBlanc の弾く Steel Guitar がイントロからエンディングまで大活躍。バック・ボーカルのSusan Dotson は、別名 Susie Dotson、 さらに結婚してSusan Coleman としてPercy Sledgeのバックをやった人。さらに、再婚後 Sue Pilkington として Boz Scaggs のデビュー・アルバムに参加して、ジャケットの内側の写真に写っている。Ginger と Mary の Holiday姉妹は Muscle Shoals 界隈の名バック・シンガー。ちなみに、前の"RAINING IN MEMPHIS" の曲にも 女性コーラスがあるにもかかわらず、クレジットが無い。きっと彼女たちである可能性は高いと思う。1970年代にSusan Coleman名義で、一枚シングルをリリースしている。 異色なのが、Tommy Richardsというギタリスト。Dan Penn の自主レーベルから1971年に、第一号アーティストとしてデビューした "Cargoe" というパワー・ポップ・バンドの メンバーだ。この曲は、アルバム・リリース後に Bell Label からシングル 45,402 のA面として発売された。

C "TIME" (by Dan Penn)

Dan Penn : Guitar
Dulin Lancaster : Drums
Jim Johnson : Bass
Jay Spell : Keyboards
Tony Oterri : Guitar
Cargoe : Background Voices
Memphis Strings : Strings

-------C曲目は、Dan Penn が 単独で書いた曲だ。逆に、単独で書くことのほうが、珍しい。 ストリングスがイントロから全篇に渡り流れるソウル・バラードとなる。Dan Pennの曲としてはかなり異色な曲。 ギターの Tony Oterri はこのアルバム以外では名前を聴いたことがない。正体不明。ひょっとしたらスペル・ミスか?。 バックに切ない声で歌っている男声コーラスがつくが、これは、前の曲で説明した "Cargoe"のメンバー全員によるものだ。ここでも、ジャケットには "Cargo" とスペル・ミス されており、長年 Cargo というシンガーが多重録音でコーラスをつけているものと思い込み、僕を悩ませた。このアルバムの中でも、かなり甘目のポップス曲なので、ファンの間でも意見の分かれるところだ。 この曲は、アルバム・リリース後に Bell Label からシングル 45,402 のB面として発売された。

D "LODI" (by John Fogerty)

Leo LaBlanc : Steel Guitar
Dulin Lancaster : Drums
Jim Johnson : Bass
Spooner Oldham : Keyboards
Susan Dotson : Background Voice
Mary Holiday : Background Voice
Ginger Holiday : Background Voice
Memphis Strings : Strings

-------D曲目は、ビックリする事に、自作の曲でなく、C.C.R. のJohn Fogertyの"LODI"をカバーしている。後にも先にも、Dan Pennのアルバムで自作以外の他人が書いた曲を カバーしているのは、この一曲のみである。しかも、あたかも自分が書きました・・・位に、自分の物にして歌っており、Dan Pennの歌のうまさを証明する一曲となっている。それも、この前の曲が甘すぎた曲だったので、 この曲で、一気にソウルの王道に引き戻してくれる。Spooner Oldhamの弾くゴスペルっぽいピアノに始まり、短いDan Pennの語りから入る導入部のかっこ良さ。なんと言ってもDan Pennのソウルフルなボーカルが素晴らしい。 Muscle Shoals の歌姫たちによるゴスペル・コーラスが盛り上げ、また、間奏のSpooner Oldhamのピアノの素晴らしさ。彼のセッション・ワークの中でも、"When A Man Loves A Woman" で弾いたオルガンと並ぶ 代表作といっても過言ではない。間奏の最後に Leo LaBlancが弾くSteel Guitarがカントリー・ソウル感をさらに盛り上げる。この曲に参加したミュージシャン全員が一つになってこの曲を盛り上げていくのが 手に取るようにわかる。レコード時代、A面最後の曲だが、しっかりとA面を締めくくり、B面へと続く期待感を持たせる。そういう位置づけにあったと思う。 ストリングスは、一番最後の締めのところだけに贅沢に使われているのが余韻があって、これも素晴らしい。

E "AIN'T NO LOVE" (Dan Penn & Spooner Oldham)

Tommy Richards : Guitar
Dulin Lancaster : Drums
Jim Johnson : Bass
Spooner Oldham : Keyboard
Cargoe : Background Voices
Memphis Strings : Strings
Memphis Horns : Horns

-------E曲目は、Dan Penn がSpooner Oldhamと共作した曲である。 この曲の著作権登録が、1971年3月29日に行われていることから、このアルバムの収録曲のなかでも、最後の方にレコーディングされた曲と思われる。 Cargoe の Tommy Richards が弾くギターのイントロから始まる曲。 バックに分厚いストリングス、そしてそれに負けない分厚い男声コーラスはCargoeのメンバー四人によるもので、この曲での Cargoe のメンバーの貢献度は高い。エンディングにかけて、金管隊も炸裂し、一気に盛り上がっていくのが本当にかっこ良い。 ここでのDan Pennは Otis Redding ばりのファンキーなボーカルを聞かせてくれる。

F "I HATE YOU" (by Dan Penn & Leroy Daniels)

Dan Penn : Guitar
Roger Hawkins : Drums
David Hood : Bass
Spooner Oldham : Keyboard
Mary Holiday : Background Voice
Jeanie Greene : Background Voice
Susan Coleman : Background Voice
Bergen White : Vibes
Marlin Greene : Guitar
Nashville Strings : Strings

-------F曲目は、Dan Penn が Leroy Danielsと共作した曲である。Leroy Danielsは、 ABC PARAMOUNT から1966年に、"Hello Daughter" という自作曲をシングル・リリースしていた人。 1970年のConway Twittyのヒット曲 'Hello Darling' のアンサー・ソングとして再注目され、同じ1970年にBANDSTAND USAという レーベルから再発売して注目された。1966年、Fame Studio では8曲レコーディングされたが、リリースされたのはこのシングル一枚だった。 ちなみに、2009年、 Aceレコードからリリースされた The Complete Goldwax Singles Volume 2 1966-1967 というコンピレーションに このシングルの両面とも収録されている。

録音されたのがいつかは不明。バックのメンバーから Muscle Shoals Sound Studioでの録音であることは間違いないだろう。 しかし、なぜこの曲をシングル・カットしなかったのか。 Dan Pennの書いた曲は多くのアーティストにカバーされているが、アルバム、"Nobody's Fool"の収録曲で他のアーティストにカバーされているのは "NOBODY'S FOOL"と"TEARJOINT"と "I HATE YOU" の3曲のみ。 カントリー・ソウル・バラードの名曲。Elvis がもしこの曲をカバーしていたらどうなっていたかと昔から思っていた。

G "PRAYER FOR PEACE" (Dan Penn, Greg Redding & Bill Rennie)

Dulin Lancaster : Drums
Jim Johnson : Bass
Greg Redding : Organ
Jay Spell : Piano
Cargoe : Background Voices
Mary Holiday : Background Voice
Ginger Holiday : Background Voice
Memphis Strings : Strings
Memphis Horns : Horns

-------G曲目は、Dan Penn がGreg Redding & Bill Rennieと共作した曲である。 Greg Redding & Bill RennieはThe Hot Dogs のキーボード兼ギター奏者とベーシスト。 The Hot Dogs は  Cargoe と同じ、ArdentレーベルからCargoeのリリースから一年後の1973年に アルバムをリリースしたパワー・ポップ・バンド。 Dan Penn がどうやって"The Hot Dogs"と知り合ったのかは不明だが、まず"Cargoe"の紹介だと思う。 1970年当時はBill Rennieと Greg Redding の二人だけのユニットでまだ"The Hot Dogs"は結成していない可能性が高い。

もともと、この曲は、1970年に Happy Tiger からシングル (HT-556) のA面としてリリースされていたもの。

H "IF LOVE WAS MONEY" (Dan Penn & Bill Phillips)

Dan Penn : Guitar
Dulin Lancaster : Drums
Jim Johnson : Bass
Bill Phillips : Organ
Tommy Richards : Guitar
Cargoe : Background Voices
Memphis Strings : Strings
Memphis Horns : Horns

-------H曲目は、Dan Penn がBill Phillipsと共作した曲である。 Bill PhillipsはCargoe のキーボード奏者。 Cargoe は、Dan Pennが新しく作ったレーベルBeautifull Labelから1970年にシングル(Beautifull 101)をリリースした、タルサ出身のパワー・ポップ・バンド。 初めて作ったデモ・テープをもともとタルサの人気DJで、当時はメンフィスの人気ラジオ局WHBQのDJをしていたRob Walkerに送った。ところで、このラジオ局 の隣がBeautifull Sound Studio というのは、前述した通り。Rob Walker はすぐにDan Pennにテープを聞かせ、彼らのサウンドを気に入ったDan Pennが このバンドにメンフィスに来てレコーディングする事を勧めた。但し、プロデューサーはDan Pennではなく、(当時、プロデュースはもう興味なかった。笑) Rob Walkerと彼がもともとDJをしていた、タルサの ラジオ局KAKC のDJ、Jim Petersの二人。Jim PetersもCargoeを当初からプッシュしていた人だ。結局、シングル一枚リリースしたのみで、Cargoeのアルバム は1972年にTerry Manning の Ardentレーベルからリリースされた。実は、アルバムも短期間にBeautifull Sound Studioでレコーディングされ、ラフ・ミックスまで 完成していたが、Eddie Braddockが金銭面で横やりを入れて、シングル一枚のリリースで終わったらしい。

さて、この二つのバンドだが。共通していえるのはCSNがBeatlesしちゃいました。 そしてメンフィス・ソウルにカントリー風味を足したパワー・ポップ。英国ロックの匂いもなぜか感じます。 "Cargoe"はメンフィスのバッド・フィンガーという趣だ。 "The Hot Dogs"の方は弦楽器や木管楽器をさりげなく使ったりして南部のスティリー・ダンといったら言い過ぎかな。

この曲と、"PRAYER FOR PEACE"は二つで一つのような組曲的に扱われている。 "PRAYER FOR PEACE"はゆったりとしたテンポから始まり、途中、語りを挟み、エンディングに向けて一気にたかまったところで、次のアップ・テンポでファンキーな 曲"IF LOVE WAS MONEY"に繋がっていくところは何度聴いてもゾクゾクする。この二曲は Cargoe と The Hot Dogs という若くて新しい才能を取り込み Dan Penn が今まで決して書けなかった曲とサウンドという意味で、象徴的な二曲である。

もともと、この曲は、1970年に Happy Tiger からシングル (HT-556) のB面としてリリースされていたもの。

I "SKIN" (Dan Penn)

Dan Penn & The Amazing Truth Band

-------アルバムの最後の曲、I曲目は、Dan Pennの作品の中でも、最も異色作。"BROTHER LEE LUV"という、分けわからない名前で、Dan Pennが新しく 作ったレーベルBeautifull Labelから1970年にリリースされた。(Beautifull 1001)・・・とずっと思っていた。しかし最近、この曲が著作権登録されたのが1969年9月25日であることが判明した。 著作権登録は曲を作っただけではされない。登録するのは何らかの形で世にでる時なので、この曲のリリースは1969年9月25日と推測される。 作者はDan Penn のみとなっているが、正確には Words: Dan Penn Music: Eddie Braddock とあるべきだ。この曲ができたいきさつはレコード・コレクターズ 2000年 4月号 のインタビュー の中に詳しく書いてある。鞄の中に偶然あった、Eddie Braddockの作った伴奏だけのテープを再生してみたら、ステレオの半分が逆再生になって再生された音にインスパイア されて、そこにDan Pennが詩を書いた作品で、歌というより語り、語りというより演説といった方が正しい。 詩の内容は人種問題で、マーチー・ルーサー・キング牧師、又はケネディ大統領の演説のように聞こえる。 "I'M WHITE YOU'RE BLACK WE'RE BROTHER" というような未発表曲もDan Pennは書いており、人種問題は彼の永遠のテーマなのだろう。

-------Dan Penn を Do Right Man や Moments From This Theatre のような最近の往年の名曲をセルフ・カバーしました・・・・みたいなアルバムから聞き始めた人達にとってはこの"Nobody's Fool"というアルバムは、どういうわけか評判がよくないみたいだ。 どうやら"Nobody's Fool"に収録されている曲は、1969年から1971年位の間にほぼ完成していたようで、なぜ発売が1973年まで、引き伸ばされたのかは不明である。 レコード会社の意向なのか、もしかしたらDan Penn自身が発売の時期をうかがっていたのかもしれない。 一時期、ネットで話題になった"Nobody's Fool"のテスト・プレス盤でもわかるように、途中で2曲がアルバムへの収録を中止して、あくまでも一枚のアルバムとして 完璧な物を目指すのに時間がかかったのか。 今までにないようなサウンドを創りあげるため、若くて才能のあるミュージシャンと組んで考えに考えて創ったアルバムなのだ。 確かに、ストリングスやホーン、バックコーラス等、大胆に取り入れ、今までに彼が書いてきた曲とは違う甘ったるいところが あるのは否めない。しかし、彼のボーカルに秘めたソウル魂はまったく揺らいでいない。 これだけ、ファンキーに唄うDan Pennのボーカルが聴けるアルバムは後にも先にもない。 自作の曲にとらわれる事もなく、C.C.R. のJohn Fogertyの"LODI"を いかにも自分が書いた曲のごとく、見事に歌い切ったところ等、本当に歌手Dan Pennとして彼がやりたかった事をやりきった渾身のオリジナル・アルバムなのだ。 往年の名曲をセルフ・カバーしました・・・的な安易なアルバムとは志が違う。

僕は、このアルバムを初めて聴いた時の感動は今でも鮮明に覚えています。

そして、最後に、このアルバムは必ずレコードを手に入れて聴いてみて下さい。CD も悪くはありませんが、最高の環境で鳴らした アナログ盤から出てくる音は、CD の百倍 いい音です。笑

-------References

「夜明けの口笛吹き」のむさしさん

Dan Penn (Wikipedia)

Dan Penn Official Site

All Music

Encyclopedia of Alabama

レコード・コレクターズ 2000年 3月号 4月号 インタビュー

The Story of Cargoe

Cargoe (Wikipedia)




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