H u n g r y   C h u c k   2
by Hideki Watanabe


-------1972年、一枚目のリリースとほぼ同時期に行われた、二枚目のアルバムのレコーディングは余り時間もかけられずに行われた。 スタジオは、Bearsville Sound Studio、エンジニアは Nick Jameson のみ、プロデューサーは一枚目と同様、Hungry Chuck すなわち Jeff Gutcheon、Jim Colegrove、N.D. Smart II の三人だ。Nick Jameson もエンジニア としてだけでは飽き足らず、何か足りない音があると思うと、自らギターを オーバーダビングするというようなことをやっている。

一枚目と違うところを説明してみると、まず、Amos Garrettがセッション・ギタリストとして多忙になり、なおかつ Paul Butterfield の Better Days に参加するため、途中で離脱した事。 後釜は、当時"GREAT SPECKLED BIRD"のギタリストだったDavid Wilcox。Amos Garrettが"GREAT SPECKLED BIRD"にいたのは、1970年、大阪で開催された万国博のカナダ館での Ian & Sylvia のバックとしての仕事で、直後、ウッドストックに引っ越した。その時Amos Garrettの代わりに"GREAT SPECKLED BIRD"に加入したのがDavid Wilcox (同性同名のカナダのシンガー・ソングライター・ギタリストとは別人なので要注意  Maria Muldaur の"Sweet Harmony"という曲でAmos Garrettと二人で、非常にAmosっぽくギターを弾いていたの覚えていますか)。

そして、一枚目と違うところ、その二は、Jeff Gutcheon以外のメンバーも曲を提供している事。逆にJeff Gutcheonの書いた三曲のクォリティは、一枚目に比べると 明らかに低い。当たり前の話である。高ければ、一枚目で他人の曲をやらずに、全曲自作でやりたかったはずだ。 Jeff Gutcheon以外のメンバーが書いた曲は、ある一曲を除いて、やはり、一枚目のアルバムの収録曲と比べてしまうと、やはりきつい。

一枚目と違うところ、その三は、ゲスト・ミュージシャンがしょぼいところだ。

では、早速、一曲目から解説してみたい。

@ ROCK 'N' ROLL DRIVER (Ben Keith & N.D. Smart IIの作品)

Ben Keith が N.D. Smart II と共作した曲で始まる。Jeff Gutcheonのロックンロール・ピアノから、N.D. Smart II が喉を潰しぎみの低い声でリード・ボーカルをとる。 Peter Ecklundの吹くトランペットに、ゲストのMunc Blackburnがテナー・サックスが加わりホーン・セクションを形成する。 David Wilcoxの弾くリード・ギターが余りにも普通なので、拍子抜け。Ben Keithはその存在が希薄だ。 N.D. Smart II が、ただ怒鳴り散らしている印象しか残らない。

A LISTEN TO YOUR HEART (Jeff Gutcheonの作品)

一曲目と同じ、N.D. Smart II のリード・ボーカルだが、うって変って、得意の高音のファルセットっぽい、軽やかな声で歌う。 N.D. Smart II のリード・ボーカル以外、謎の女性ボーカルがハーモニーが付いている。 Jeff Gutcheonの曲も、ヒット性を感じる、ポップな曲で、かなり前から書いていた曲のようだ。完成度も高い。 しかし、これは絶対 "HUNGRY CHUCK" が歌うような曲では絶対ない。 このアルバムの中で完全に浮きまくっている。 Amos Garrettのいかにも彼らしいギターの間奏がとにかく素晴らしい。Ben Keithの弾く Pedal Steel がエンディングをきっちり締めてくれる。 余りに良い作品なので、二年後、The Hello People が The Handsome Devils というアルバムで取り上げている。 そう、The Hello People あたりが歌う曲なのだ。こういう曲もJeff Gutcheonは書けるという見本のような曲だ。 ちなみに、The Handsome Devils では曲のクレジットが Jeff Gutcheon & Beth Gutcheon と、当時の奥さんとの共作となっていた。 Peter Ecklundは全く不参加。

余談 1

Amos Garrettのギターといえば、やはりMaria Muldaur の"Midnight At The Oasis"での、キラメキ・ギターがそのブレイクの始まりだと思うが、 1972年の、Amos Garrett が "LISTEN TO YOUR HEART" で披露したちょっと短めだが、キラメキのあるフレーズを弾いているのに、正直ビックリした。 "Midnight At The Oasis" のギターを聴いてなくて、リアル・タイムで このフレーズを聴いたら、ものすごい衝撃を受けたことであろう。 Amos Garrett にとっても、ギタリストとして注目される時期がもう少し早まったと思う。

B PLANTATION (Jeff Gutcheonの作品)

やっと、三曲目にして、"HUNGRY CHUCK" らしい曲が出てくる。 Jim Colegrove がリード・ボーカル、Jeff、 N.D. がハーモニーを付けている。Ben Keithはその存在が希薄だ。 Amos Garrettのギターは、バックでも、間奏のソロも相変わらずかっこよく決めている。Amos の特有な個性あるギター・スタイルが、完成されつつある。Peter Ecklund も、多重録音でホーン・セクションを一人でつけ、 これこそ、"HUNGRY CHUCK" のサウンドで安心する。

C STOCK CAR STARR (Danny Doumaの作品)

四曲目は、なんとDanny Doumaが提供した曲である。彼がどんな人物かは、ここを見ていただきたい。 たしかに、彼の唯一のソロ・アルバムには、Amos Garrettや Garth Hudson が参加していたので不思議ではあったが、1972年時点で、Danny Douma なんて、誰? ・・・というような存在 なので、不思議である。色々、調べてみると Hello People のメンバーと親しかったらしいのだが、それだってまだ先の話だし (Wah-koo、 Hello People 共に ABC のレーベル・メイト) 兎に角、"HUNGRY CHUCK"の二枚目にDanny Doumaがライターとして参加しているのが、スターと地点なのだ。どういういきさつでこうなったのか、さっぱり解らない。 曲的には、軽快なカントリー・ロックで、Amos Garrettの カントリー・スタイル・ギターが全篇引っ張っていく。一応、"HUNGRY CHUCK" のサウンドは保たれている。

D MY BUCKET'S GOT A HOLE IN IT (Hank Williamsの作品)

Hank Williamsの曲をカントリー・ロック的アレンジで歌っている。 やっと David Wilcox の弾くカントリーっぽいギターが、機能してきた。Ben Keith のPedal Steel とも、いいバトンタッチし、全篇に渡る N.D. Smart II の叩くドラム・ロールが曲をリードしている。"HUNGRY CHUCK" らしい曲で,選曲も成功していると思う。

E CELIA (Jim Colegroveの作品)

この未発表アルバムの中で、最も優れた曲。曲の出来、演奏共に文句のつけようが無く、もし、ファーストに収録されていても全く違和感がない。 おそらく、Amos Garrett が脱退し、次のギタリストがまだ決まらない状況でレコーディングされたのではないか。 Jim Colegrove が、リード・ボーカルとアコースティック・ギター。N.D. Smart II がドラムとコーラス。Jeff Gutcheon がピアノとコーラス。 Ben Keithが珍しくベースとコーラス。オーバー・ダビングでペダル・スティール。 以上、四人だけのラインナップというのは、"HUNGRY CHUCK" として初めてだ。 それも、ギター不在ということで、もはやBen Keithはリード・ペダル・スティールであり、本領発揮して弾きまくっている。 Jim Colegroveのリード・ボーカルが哀愁が漂っており、それにBen Keith のギターが更に哀愁感を倍増してくれる。 Bearsville Box に収録されたのが、初めてのお披露目となったが、これだけ、出来のいい曲なら当然だ。 今では、"HUNGRY CHUCK"のボーナス・トラックとして簡単に聞けるようになった。ただし、作曲者不明扱いになっているが、間違いなくJim Colegroveの 書いた曲である。 

F DO YOUR DUTY (original by Bessie Smithの作品)

今回、Peter Ecklund が余り、活躍の場が少ないので、一つ思い切りジャズの曲ということで、Bessie Smith の古い曲をとりあげ、"HUNGRY CHUCK" 風に仕上げている。 Peter Ecklund も トランペット に 後から コルネット をかぶせて頑張っており、それに続くクラリネットかと思ったのが、実はAmos Garrettのギターだったので びっくりだ。Amos は 後でトロンボーンもかぶせており、さらにホーン・セクションの層を厚くしている。 とにかく、本来なら クラリネットが吹く、フレーズをAmos がギターで弾いており、また、Amos の驚異的なテクニックを聴くことになる。 やはり、"HUNGRY CHUCK" には、ジャズの要素は不可欠であると再認識した。

G BOX OFFICE DISASTER (N.D. Smart IIの作品)

N.D. Smart II が単独で書いた曲。N.D. Smart II は "KANGAROO" 時代にも二曲書いて、そのうちの一曲はシングル・カットされている。 その時のアーティスト名は、"N.D. Smart II & Kangaroo" であった。 軽快な ロックンロールの曲で、完成度は高い。 というわけで、CELIA と同様 Bearsville Box に収録され、今では、"HUNGRY CHUCK"のボーナス・トラックとして簡単に聞けるようになった。ただし、作曲者不明扱いになっているが、間違いなく N.D. Smart IIの書いた曲である。David Wilcox がまるでホーンセクションの低音部のような音をギターで弾いていたり、隠し味的に途中から Jeff Gutcheon がオルガンを足していたり 、結構こったサウンドを作っている。

H THE PLACE I USED TO CALL MY HOME (Jeff Gutcheonの作品)

Jeff Gutcheonの作曲した三番目の曲。出来はそんなに悪くないのだが、なんかピンとこない。David Wilcoxの弾くギターがイントロからワンパターンでつまらない。 やはり、Amos Garrettが いれば、もう少し"HUNGRY CHUCK"らしくなっていたのではないか。 Ben Keith の Pedal Steelも Amos Garrettと一緒ならもっといい演奏すると思うのだが、なんか迷走している感じだ。 唯一、Peter Ecklund のトランペットとN.D. Smart II のリード・ボーカル、Jeff Gutcheon の弾くピアノは凄く良いので尚更残念な曲だ。

I TRUCKER'S HEAVEN (B. Lubinsky and Jim Colegroveの作品)

Jim Colegroveの作品でリード・ボーカルも担当。 Eの CELIA  が余りに素晴らしい曲だったので、その落差が激しい。 全篇、抑揚がないのっぺりした感じの曲で、他のメンバーも、なんとか盛り上げようとしているが、空回りして終わる。 David Wilcoxのギターは、全く見せ場がないうちに終わってしまうし、Ben Keith のPedal Steel は、その存在が分からずじまい。 

-------余談 2

Amos Garrettの不在は、あの独特のギターが聴けないという他に、ベース・ボーカル不在となり四声の厚みのあるドゥワップ的なコーラス ができなくなったことで、"HUNGRY CHUCK" の個性が薄れてしまうことになってしまった。 特に、"BOX OFFICE DISASTER" は、もしAmos Garrettのベース・ボーカルが加わっていれば、さらに音の厚みがまして、"HUNGRY CHUCK" らしさが増したと思うので残念だ。 Amos のギターは何気ないパッキングでも、要所々々に独特なリフで、複雑なリズムの乗りをつくっていたので、やはりAmos がいないと "HUNGRY CHUCK" のサウンド は成立しないということだ。

-------余談 3

C、D、H、I と似たような曲が集まってしまって、一枚のアルバムとしては、もっと変化が欲しいような気がする。逆にAは、余りにもポップな 曲で違和感があり、一曲々々を単独で聞けば、そんなに悪い曲はないのだが、一枚のアルバムとして聴くのは、ちょっとつらいかな。 まあ、未発表アルバムだからと言ってしまえば、それまでだが、でも、1972年に、"HUNGRY CHUCK" が、あのアルバムの他に、こんな音楽も 作っていたという事を知るためにも、なんとか発表の場をいつか与えて欲しいと節に思います。




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